瀬戸の狛犬―愛知県陶磁美術館コレクションから

2014/08/01
愛知県陶磁美術館副館長 神崎かず子

 瀬戸には有名な「狛犬」がある。陶祖藤四郎の作と伝えられ、威風堂々の圧倒的な存在感を誇る深川神社の「灰釉狛犬」である。この狛犬は14〜15世紀の瀬戸製と考えられ、現在国の重要文化財に指定されているが、瀬戸市民にとっては大切な郷土の守護獣である。

 その他にも、この地域以外の寺社に伝来した15世紀の瀬戸製狛犬が知られている。香取神宮(千葉県佐原市)の狛犬、千利休伝来の瀬戸獅子香炉(根津美術館所蔵)、と伊勝八幡宮(愛知県名古屋市)の狛犬で、それぞれ重要文化財、重要美術品、愛知県有形文化財に指定されている。

 こうした陶製狛犬は、瀬戸・美濃地域において、鎌倉時代(13世紀)以降明治まで継続して製作されてきた。これらは山の神などを祀る山中の祠用と思われる小形のものや、絵馬のように奉納された中形品、寺社の参道や本殿用と考えられる大形品など、様々な種類の狛犬であり、戦前までは祠前や神社の軒下などに並べ置かれていたと伝えられている。

  愛知県陶磁美術館では本多静雄氏からご寄付いただいた200体を元に、現在216体の陶製狛犬を収蔵し、西館で常時100体を展示している。この中には、深川神社の重文「灰釉狛犬」を手本としたもの、香取神宮の狛犬=写真左=や根津美術館の獅子香炉=写真右=と類似するものも含まれている。

 一般的によく知られている狛犬は神社の参道に鎮座する一対で、いわゆる守護獣の特徴を備えているが、深川神社タイプの狛犬はその典型例といえる。一方、香取神宮タイプは全身が細くしなやかで、前肢は太く足もたくましく、狭い額や切れ長の白眼に特徴があり、俊敏な野生動物の山犬を連想させる。また、根津美術館タイプは、特徴的な白眼や櫛目などは香取型とほぼ同様であるが、頭部は丸く大きく全身も太いことから、守護獣と山犬の特徴を併せ持つ。この他山犬風の伊勝神社タイプも併せ、これらが室町時代の瀬戸製狛犬の代表作である。

 江戸時代になると、守護獣や山犬タイプ以外にも家犬や狐、猪、猫ほかを象ったものなど豊かな作例が数多く作られ、頻繁に奉納されるようになった。これらには紀年銘や奉納先、施主名、陶工などを記した例も多く、身近な生活圏内の神社に奉納していることがわかる。

 このユニークで親近感あふれる狛犬は、他の地域には見られない、当地独特の民俗文化である。これらは先人たちの暮らしとともにあり、日々の宗教観や生活感などを今日に伝えている。親しみやすく奥深い郷土の文化財として、長く語り継いでいきたいテーマである。

(かんざきかずこ)

愛知県陶磁美術館:〒489-0965 愛知県瀬戸市南山口町234
公式サイト http://www.pref.aichi.jp/touji/

掲載の記事・写 真・図表などの無断転載を禁止します。

著作権は深川神社またはその情報提供者に帰属します。