甦る本殿彫刻〜見えざる形を探して〜

2013/09/01
株式会社さわの道玄 余江岳央

 今年の8月に深川神社本殿立川流彫刻の修復に携わらせていただきました。

 平成13年にも弊社が修復を行なわせていただき、私もその時作業に加わった一人でした。当時の彫刻の現状は、龍の髭、手、爪、角、牙、雲の先、脇障子の亀の顔、髭、笹など、いろんな部分が欠損して失われておりました。その頃、私にはこだわりがあり、如何に欠損した部分が、さも欠損していなかったかの様に修復できるか、ということを考えて作業にあたっておりました。例えば、木彫刻には彫刻の形だけではなく、それ以外に「木そのものの形」が存在します。それは、木の年輪や木目という形です。風化によって木目は痩せていき、木目の夏目と冬目の痩せ方の違いにより凹凸が生じ、木目の独特な形が形成されます。その存在も同じ様に修復してあげることによって、現存する彫刻と違和感がなくなっていきます。
 
  最近は『探す』ということにも目を向けて作業を行っております。私の中での『探す』ということは、すなわち、『みる』ということです。欠損した部分の状況や周りの状況を観察し、欠けた周りの彫刻の表現や空間(間)を読み取り、彫刻の特徴を掴み、欠損したラインを導き出します。つまり、欠けた部分を修復者が想像だけで作り上げるのではなく、目の前にある彫刻から様々な情報を探し出した形を基に欠けた部分を補うということです。ですので、残念ながら欠損部分が大きくなればなるほど補う形は探しにくくなっていきます。
 
  また、周囲のどこかに欠損した彫刻がないか探します。欠けた部分は、当然元々存在している・・・・とはいっても、大きく欠けた部分が落ちていれば、それは彫刻の欠片だとわかりますが、小さく欠けた部分などは、一見なんの変哲も無い木の欠片にしか見えないと思います。しかし、彫刻のそばに落ちていれば、ほぼ確実に彫刻の破片だと思って良いと思います。私がいうのもなんですが、欠片が見つかった時は本当に嬉しいのです。なぜなら、やはり、現存する本物の彫刻の欠片を元に戻すという修復が一番良いと考えるからです。出来るだけ当初のものが長く存在できるよう弊社もご協力させていたければと考えております。
 
  基本的に修復は、修復者の個性は要りませんし師匠もいません。しかし、その代わりに、その時その時の目の前にある彫刻が師匠となり、私にいろんなことを教えてくれます。当然それを彫った彫師の特徴を損なわないようにしなければ違和感が出てしまいます。たとえば、簡単でわかりやすい特徴として、海老虹梁の波彫刻の先端の丸い部分や龍の髭の特徴、また、その龍の髪の毛と脇障子の亀の尾っぽの毛が同じ表現で彫られているなどです。その特徴を損なわないためにも、『探す』ということを怠らずに欠損したラインを導き出さなければならないのです。※5月の瀬戸歳時記で、龍や亀などの写真何点かを紹介しています
 
 今回12年間の経年による風化でいろんなところがまた痛んでいました。目だって多かったのは修復部分の補色部分の白化、そして人工的に形成・修復された彫刻と木部の境目で接合された部分の破断、それ以外にも前回の施工で欠損していなかったであろう欠損もありました。

修復前                              修復後

 母屋正面『翡翠と牡丹』彫刻の蟇股(写真)では、その彫刻の向って右上の牡丹のつぼみと茎と葉の部分が折れていて、その下の彫刻の裏側に落ち込んでいるのが判明しました。この滑落した彫刻については、多分前回の修復の時も気がつかずにそのままになっていたかと思われます。今回その彫刻が復活しました。これは、私にとって今回一番の嬉しい発見であり出来事でした。

修復前                              修復後

 脇障子(写真)に関しては、右側の脇障子の裏板部分が、右下部に10mmほどずれて隙間があいておりました。そのため脇障子を一旦取り外しまして、更に脇障子から彫刻を外しました。さらに、板は框にハメ殺しになっておりましたので、板を少しずらしてその隙間がなくなり元の位置に戻りました。ただ、脇障子に関して作業中に気がついた事ですが、左右どちらの脇障子も日当たりが特にきつい場所にあるので、劣化がほかよりも進行が早いと思われます。今後彫刻の保存をご検討されたほうが良いかと思います。

修復前                              修復後

 手挟彫刻(写真)に関しては、右側外面手挟彫刻の葉の欠損、虫食い穴があり、人工木材で補いました。また、一部分の葉が彫刻の隙間に落ちておりましたので、欠損の場所を特定し元の位置に取り付けておきました。
以上で今回の修復のご報告とさせていただきます。

 過去の偉大な方が手掛けられた彫刻の修復をさせていただけるのは、この仕事の極みでもあります。そして、おそらく現在の彫刻師の方ですら、ほとんど真直で見ることが難しいところでの作業が出来きましたことを大変嬉しく思いました。ありがとうございました。

株式会社さわの道玄

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