「ねぎさん」と、たまにお年寄りから呼ばれます。 禰宜(ねぎ)は、昔は神主さんの下、祝(はふり)の上の神職です。
「ねぎ」は、祈ぐ(ねぐ)からきています。まぁ祈るのがお仕事です。が、実は、毎日の一番の仕事は、お掃除であります。
それはさておき、時々あれこれとつぶやくのでお聞きください。
暑中お見舞い申し上げます。
いきなり盛夏のような暑さです。皆様、くれぐれもご自愛くださいませ。神社にいらっしゃる方は、口々に「ここは、涼しい」とおっしゃいます。街中に比べれば、境内の木陰は風が通れればかなり涼しいのですが、やはり暑いです。
さて、夏と聞けば、旅に出たくもなるものです。
旅のよさは、物理的にも精神的にも日常から離れることにより、心身ともに清々しさを得られることでしょう。しかし、なかなか簡単に旅に出られないねぎどんは、よい場所をみつけました。名古屋の都心にいながら、御嶽山から濃尾平野を経由し伊勢湾まで辿りつく木曽川の流れにしばし憩う場所です。「あっ、あそこだ」とお分かりの方も多いのでしょうが、名古屋市熱田区にある「白鳥庭園」です。世の中には「もっと早く知っていれば、、、」と、それまでの知らなかった分が、とても悔しくなる出会いがありますが、私にはその一つでした。仕事がらみで熱田神宮までは、数えられないくらい足を運んでいますが、その先に、こんな素敵な場所があるとは、、、名前は知っていたものの、それまで行ったことがないかったことが、本当に残念でなりませんでした。
訪れたのは6月末です。その日は小雨が降る中の散策でしたが、その雨が木々の緑の美しさを一層際立たせ、しっとりとした味わい深い庭園の印象となりました。正門では、犬山にある国宝茶席「如庵」の書院「正伝院」の意匠を模した玄関が迎えてくれます。木曽川の水を汲み上げた源流が渓流を成し、石橋をくぐり抜け、滝へと落ち、渓谷へと変化していく、大きな自然がそこにすっぽりとあります。
御嶽から生まれた木曽三川は、やがては広がりなだらかに海に集まっていきます。山と海は繋がっていると、自然な縮図だからこそ改めてよく分かります。
激しい流れは気持ちを湧き立たせ、穏やかなせせらぎは心静まる。川に沿って歩みながら、今、どこにいるのかわからなくなるような空間の中にいました。できれば流れのほとりにずっと佇んでいたい。水の流れの中に心を遊ばせたい。
水がこんなにも心地よいのは、その昔、母の胎内でゆらゆらと揺れて育まれるからでしょうか。
また、白鳥庭園の本館は「清羽亭」といい、茶会のできる施設でありますが、句会からコンサート、結婚式など様々な催しで使われる場所があります。その中でも、広間から奥まった所にある二畳台目席の本席が、素晴らしい。何が、どう素晴らしいのかを、説明できる専門的な茶室の知識がないので申し訳ないです。ただ、狭い土壁の部屋に明り取りの天窓、その空間には、主と客しか存在しない。差し向かいで茶を喫すれば、まさに「一期一会」そのものを体感できるに違いないという感覚です。戦国の世に、命の駆け引きの表舞台から一瞬の間を求めて茶の湯に憩う武将たちの心の在り方を垣間見る気がしました。何もないことが、有り難しなのでしょう。
ちょうど先ごろまでの蒸し暑さのように誰しも心身にまとわりつく日常を、しばしの間だけでも逃れたい、そんな気持ちになる時があると思います。白鳥庭園は、そんな人に心の旅を供することが出来る庭園だと思います。
白鳥庭園
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