ほろ苦い七五三

2009/11/19

七五三のお参りも峠を越え、いよいよ年末年始へ頭の中は切り替わっていきます。とは言っても、半年過ぎた6月の「茅の輪くぐり」神事が終ると「やれやれ、もうお正月だな」と思うのですが、実感はやはり寒くならないとわきませんね。

さて、この七五三の時期はけっこう雨が降るものです。この頃の雨を「さざんか梅雨」と呼ぶと天気予報で言っていました。確かに稲荷社にあるさざんかがもう咲き始め、かすかに甘く清涼感のある香りが漂ってきます。さざんかと同じ頃に銀木犀もほころびはじめ、こちらも金木犀のちょっと濃厚な甘さよりも控えめな感じで、香水でいえばシトラス系でしょう、すがすがしくて好きです。

話がそれましたが、11月のある日の午後も曇り空で、あいにくお客様がご祈祷を受けている間に雨が降り出してしまいました。ご祈祷が終られたお客様に傘をお貸ししようと祈祷場からの降り口に行ったところ、一番端にあったお母様の靴に雨が少しかかってしまっていました。

何か拭くものをとりに行かなければと心で思いつつ、「濡れてしまいましたね」と、先に下りていらしたお祖母様に声をかけると、ちょっと不愉快そうな面持ちでカバンの中を何か拭くものをと、探しにかかられました。そこへ次に降りてきたご主人が、すっと奥様の靴を取り上げて、さっとポケットからご自分のハンカチを出し「濡れたってどうなるわけじゃない」と水を拭って下さいました。

その瞬間とても恥ずかしくなりました。「濡れてしまいましたね」とは、なんて間の抜けた言葉だったのでしょう。見れば濡れているに決まっています。袂に入っていたハンドタオルを取り出すことが、先決だったのでしょうに…。

そして、もう一つの失敗談。七五三のお参りの最近の傾向は、一人のお子様に大勢のお供の方々、ご両親はともかく双方の祖父母、そして、おばさんだのおじさんだのがついていらっしゃることも珍しくありません。そのため混雑時には祈祷場に入りきれなくなるので、ご参列をお子様とご両親のみに制限させていただくことがあります。

それでも、どうしてもわが孫の晴れ姿を見たいのでしょう、祈祷場に入ってしまわれようとする祖父母も、残念ながら稀にいらっしゃいます。そんな方には、「申し訳ございませんが、本日はお子様とご両親以外はご遠慮していただいております」と申しあげるのですが、ある時、拝殿に上がろうとされるお祖母様らしき人にそう声をかけたとき、隣にいらしたお父様が「僕、離婚したんで…」

一瞬、私の顔はたぶん引きつっていたことでしょう、「えっ、そんな直接的な理由を言われなくとも…」と。たいへん失礼なことを言ってしまい、申し訳なくなってしまいました。幸いにしてそのお父様は、ご気分を害された様子もなく良かったのですが、声をかけるにしても難しいことだとつくづく思ったものです。

お一人、お一人に「ああ、この神社にお参りに来てよかった」と思っていただけるよう、その場の状況を読み取り、もっときめ細かな心がけ、言葉がけをしなければならないと改めて思ったねぎどんでした。

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