熱田神宮遷座祭

2009/10/17

10月10日午後7時になろうとする頃、ねぎどんも「御遷座祭」が執り行われる熱田神宮の御垣内に参列しておりました。辺りは夕闇に包まれ始め空気もひんやりとしてきました。鼻先をかすめるのは、蚊取り線香のにおい。今日の神事の説明をされる神職の声が、人のざわめきにかき消され何を話されているのか分からなかったのが、徐々に鮮明に聞き取れるようになりました。人々が静寂な空気に溶け込んでいきます。遠くで太鼓をすり打つ音が聞こえたかに思えます。

神事はご本殿裏の仮殿で始まりましたが、参列者は神事の進行を伝える声を頼りにひたすらじっと待つよりほかありません。やがて御神体をお移しする行列に携わる役の名を一人一人呼び上げる声が聞こえてきます。列次は、松明、御盾、御桙、など総勢120人です。雅楽の音色が動き出しました。

午後8時、一斉に境内の灯りが落とされました。

いよいよ二年ぶりに御本殿にお戻りなる「遷御」です。何といっても、御神体に三種の神器の一つ「草薙の神剣」を奉戴する、伊勢神宮と並ぶ尊いお社であります。同時刻に、天皇陛下は皇居より熱田神宮を遥拝されておいでで、全国の神社にも遥拝するようにと通達されています。

本殿西側に沿って設けられた「雨儀廊」(うぎろう)を仮殿から渡ってくる浅沓のザッザッ、ザッザッ、ザッザッという規則正しい玉砂利を踏む音が、次第に大きくなっています。やがて御垣内をゆらゆらと松明の炎があたりを照らし、ゆったりゆったりと装束姿の列次が続きます。御神体を覆う白い布で作られた囲い「絹垣」がぬーっと見えます。お通りになられる間は頭を下げていなければなりません。が、人の心理はその逆で覗きたいものです。ちらちらと目線を送りながらの低頭です。ねぎどんは、急に冷たくなった外気のせいなのか御神体がお渡りなる厳粛さとその御威光のせいなのか、一瞬ぶるっと身震いをし鳥肌が立ちました。

約30分の暗闇は終わり、新たなお社にお鎮まりになった大神様の前で勅使が御祭文を奏し、順次玉串を奉りて拝礼され、最後に宮司にあわせ参列者一同拝礼をして全てが納まりました。 

創祀1900年記念造営、それは昭和30年のご造営から54年ぶりのことです。次はまたこの慶事に巡り合うのは50年後。ねぎどんは生きているかな…?

「千載一遇」や「一期一会」という言葉が真実をもって迫ってくる臨場感でした。人から人へ手渡しに心渡しに、ご社殿、儀式が受け継がれていきます。途絶えることのない時のはざまに存在するだけの「人」とはなんとちっぽけな時間でしかないのだろうと思います。しかしながら、その小ささゆえに神様の前に深く頭を垂れ、世代が世代へと一続きの生命となり神様とともに息づいてきているのだと、改めて神と人との絆を感じ入った貴重な経験でした。


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